【オムニチャネルコンサルタントの視点】
未来を見据えて

逸見光次郎

過去5回にわたって国内リテールのデジタル化、オムニチャネル化が進まない原因や、EC化率から見る各業界の状況についてオムニチャネルコンサルタントの逸見氏に解説していただきました。今回は連載の最後にあたり、過去ではなくこれからのことについて提言いただきました。

まず取り組みべきは〝見える化〟

いま取り組むべき事は何か?
自社の、自分の未来を変えるためには、何に取り組めば良いのだろうか。

システムに投資する?
戦略を立ててくれるコンサルタントやデジタル人材を雇う?
組織の大胆な変革?

いずれも違う。
いま取り組むべき事は人への投資、社内の人材育成だ。
これまで社内の業務を学び、慣習を身につけ、人脈も持つ人々に、変革する思考とそのスキルを学ばせる。
その対象は経営陣も例外ではない。

業務の〝見える化〟のための業務フロー作成手法。あるべき姿と現業のギャップを見える化する課題管理表の作り方。基本的な戦略を立てるために3CやSWOT、USP、STP、4Cなどの基本フレームワーク。ITが苦手であれば、現業を中心にした業務とシステムの絵を描く訓練など、今の業務を組織とシステムで見える化し、あるべき姿を描き、ギャップを明確にして改善するための手法を身につけるのだ。

財務諸表を読みこなそう

財務諸表も苦手なら学ぼう。損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)、キャッシュフロー計算書(C/S)の3つを知る。3表の中にある「お金を調達し(B/S右側)」「何かに投資し(B/S左側)」「事業活動をして利益を上げる(P/L)」の繋がりを理解する。C/Sにはその3つがあり、プラスマイナスは利益ではなくお金の出入りを示すことを理解する。

P/Lの5つの利益、変動費と固定費、税引後利益から翌年への利益剰余金が生まれたらそれはB/Sの右側に加算される繋がりを理解する。B/Sの左側の在庫金額と在庫回転を追いかける事など、単なる数字と会計ルールとしてではなく、事業に連動して解釈する知識として身につける必要があるのだ。

さらに数字とお客様をつなげて考えられるように、店舗勤務であれば、月次の売上と客数に対し、新規と既存に分解、その売上金額における構成比率を経年変化で分析する。難しいツールが使えなくても、エクセルやスプレッドシートを使って、vlookup関数とピボットテーブルで十分出来る。

昨年に対して全体の客数・客単価がどう変わっているのか。その中における新規と既存割合はどう変化しているのか。新規はきちんと次の購買に繋がり、既存客となっているのか。新規と既存客の客単価と年間購買回数はどれくらい違うのか、本社で分析スキルを持つ人が一緒に数値化する。

店舗の人は普段感じている感覚の数値的根拠を知り、本社の人は普段見ている数値の現場仮説を知る事が出来る。双方にメリットがあるのだ。この時には同時に、デジタルを活用する事で見える化がしやすくなることを学べる。

LTVで経営数値を読み解く

経営陣ならば、財務諸表だけではなく、顧客勘定つまりLTV(ライフタイムバリュー=生涯顧客価値:その顧客がどれだけ自社で買ってくれているか、単年ではなく複数年で見える化する)で経営数値を読み解く訓練をする。戦略を立てる時、新規顧客を増やすのか、既存顧客を増やすのか。それぞれの客単価と年間購買回数から売上増し分と客数増し分に落とし込む。新規のうち何%が翌年も継続するのか。さらにその翌年はどうなのか。新規/既存それぞれにどれだけの販促費をかけると、その効果は単年と複数年でどう出るのか、整理出来るように学ぼう。

そして世の中の変化について、積極的に外部のセミナーに参加したり、様々な人に会って話を聞き、自分なりにかみ砕いて理解する習慣を身につけよう。単に人の話を聞くだけではなく、そうした変化に自分たちがついていけているのか、わが身に置き換えてきちんと考えるくせをつける。デジタルが目的、ではなく、世の中の変化に対してデジタルをどう使うか、が重要だからだ。業務によってはデジタル化しない方が良いこもあるかもしれない。

こうして社内の人への教育投資を行い、自ら考える素養をつくり、変革について考え、取り組んでいくのだ。そのスピードを早めるために外部の専門家を入れる事は賛成だが、あくまでも中の人を教育する役割であり、その人に丸投げしてはいけない。外部人材が社内業務を覚えて人脈を作って社内に定着するのはとても難易度が高く、それより社内人材に教育をしてデジタルの知見や様々な手法を身につけさせるほうがずっと容易なのだ。

社内の業務を深く知り、デジタルの知見や戦略立案のスキルを身につけた経営陣とメンバーがいる企業は、正しく仮説を立て、改革に取り組み、修正しながら進んでいく事が出来るようになる。ぜひ今日から、あなた自身が会社の変革を生み出す一人として、一歩を踏み出していこう。

これまでお読みいただきありがとうございました。

参考

逸見光次郎

株式会社CaTラボ 代表取締役 オムニチャネルコンサルタント

1970年生まれ。学習院大学文学部史学科卒。94年 三省堂書店入社。 神田本店、成田空港店、相模大野店、八王子店勤務。99年ソフトバンク入社。イーショッピングブックス立ち上げ(現:セブンネットショッピング)。06年 アマゾンジャパン入社。ブックス マーチャンダイザー。07年イオン入社。ネットスーパー事業立ち上げ後、デジタルビジネス事業戦略担当。11年キタムラ入社。執行役員EC事業部長、のち経営企画室オムニチャネル(人間力EC)推進担当。17年オムニチャネルコンサルタントとして独立。19年4月より現職。 現在は、オムニチャネルコンサルタント(株式会社CaTラボ)、プリズマティクス社アドバイザー、デジタルシフトウェーブスペシャリストパートナー、流通問題研究協会 特別研究員、EVOCデータ・マーケティング取締役、防音専門ピアリビング取締役、日本オムニチャネル協会理事、資さんうどん通販課長 兼務


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