【オムニチャネルコンサルタントの視点】
国内小売業のDXはなぜ進まないのか?

逸見光次郎

長く小売りの現場を経験し、ネットとリアルの融合に取り組んできた逸見先生。デジタルトランスフォーメーション(DX)のカギはやはり経営陣の意識改革が第一だと説きます。その上で消費者理解が必要になると指摘してます。

オムニチャネル推進の始まりは〝ネット書店〟

筆者はこれまで20年以上、小売の現場で店舗事業とネット事業の融合、いわゆるオムニチャネル化を推進してきた。最初は書店・出版業界。アルバイト時代含めて10年近く書店店頭で勤務し、1999年にソフトバンクに転職してネットで本を注文し、宅配かセブンイレブン店頭で受け取れるeS!Books(現セブンネットショッピング)の立ち上げに関わった。当時WEBのデモ画面を見せても、業界の方々からは「よくできたおもちゃだね」と言われ、商品調達にも苦労した。しかし翌年にアマゾン・ジャパンのサービスが国内で始まり、その後数年で〝ネット書店〟というビジネスが認知され、業界の数字やサービスにも大きく影響を与えるようになった。

これにはネット書店、というビジネスモデルだけではなく、当時のソフトバンクが進めたADSL回線などの“ネット定額接続”が浸透していた事も大きかった。そして楽天、ヤフーショッピング、ZOZOなどのネットモールの台頭によるネット販売事業社の拡大、スマホの登場によるネット端末の持ち歩き、Wifiなど回線の高速化に利用頻度の増加など世の中のデジタル環境は大きく変化し、消費者はその利便性を求め、活用してきた。

DX化を阻む〝変わらない〟経営陣の存在

ところが日本企業の多くはこれまでの成功体験とそのビジネスモデルを重視し、変化をためらってきた。「いい取り組みだと思うけれど、いますぐにやらなくてもいいんじゃないか。社内説明も大変だからね」このやり取りをどれだけの現場で耳にしたことか。人は新しい取り組みを面白いと思いつつも組織人としての役割を優先する。eS!Books創業から20年経った今も「うちのお客さんはスマホ使わないよ」「お店が大事なのに、そんな所に投資出来ないよ」と、変わっていない経営陣がいる。

要は市場、顧客、消費者をちゃんと見ていないのだ。企業都合で考えるくせがついてしまっている。なぜならこれまでは「商品中心」「店舗中心」でいい商品を安く、いい立地に展開すれば売れた。それを支えたのは国内の人口増加であり、世帯平均所得の増加だった。ところが今の日本はそうではない。それなのに企業はやり方を変えられない。“客数”は自然に増えるものではなく、きちんと分析して施策を考え、関係性を深めてリピートを高め、平均単価×平均購入回数つまりLTV(顧客生涯価値)を高めていく投資と経営を行う時代になったのだ。

「目的」から「手段」を考える

経営は単純に売上前年比〇%増、という単純な目標ではなく、新規顧客/既存顧客でその数字を分解して説明する必要があり、現場はそれに応じた品揃えや売り方、施策を考える。こうしたデータはデジタルで見える化され、PDCAがきちんとまわっていくようになるのだ。

そのために自社に必要なデータとツールはなにか、そのデータを取得する仕組みは何が必要なのか、“目的”から“手段”を考えるようになれるのである。単なる“手段”である“デジタルな仕組み”を導入してもDXは達成できないからだ。常に顧客の立場に立って考える思考と、たゆまぬ業務変革、そのために必要な組織改編、ITシステムと新しい評価軸の導入が必須である。

コロナ禍で世の中が大きく変わる中で、企業の変革も“いつかやること”から“いまやるべきこと”に変わっている。これを一時的な変化として拒むことなく、きちんと自社を見直し、顧客・消費者の継続的な支持と企業の継続的な利益を両立する正しいDXの道のりを歩み始めてほしい。

参考

逸見光次郎

株式会社CaTラボ 代表取締役 オムニチャネルコンサルタント

1970年生まれ。学習院大学文学部史学科卒。94年 三省堂書店入社。 神田本店、成田空港店、相模大野店、八王子店勤務。99年ソフトバンク入社。イーショッピングブックス立ち上げ(現:セブンネットショッピング)。06年 アマゾンジャパン入社。ブックス マーチャンダイザー。07年イオン入社。ネットスーパー事業立ち上げ後、デジタルビジネス事業戦略担当。11年キタムラ入社。執行役員EC事業部長、のち経営企画室オムニチャネル(人間力EC)推進担当。17年オムニチャネルコンサルタントとして独立。19年4月より現職。 現在は、オムニチャネルコンサルタント(株式会社CaTラボ)、プリズマティクス社アドバイザー、デジタルシフトウェーブスペシャリストパートナー、流通問題研究協会 特別研究員、EVOCデータ・マーケティング取締役、防音専門ピアリビング取締役、日本オムニチャネル協会理事、資さんうどん通販課長 兼務


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