【オムニチャネルコンサルタントの視点】
EC化率から考える自社デジタル戦略②

逸見光次郎

新型コロナウイルスの感染拡大は、小売市場全体における電子商取引(EC)の比率を高めました。経産省の市場調査レポートを逸見光次郎氏が読み解きます。

食品分野はネットスーパーもけん引役のひとつ

前回は経産省発表のEC化率レポート(「令和2年度電子商取引に関する市場調査」)とともに商業動態統計による小売市場全体をみることで、各分野の成長余地について触れた。今回は各分野の具体的な内容について触れたい。

(1)食品、飲料、酒類

新型コロナウイルス感染拡大による「ステイホーム」で外食の売上が下がった分、食品スーパーは店舗の売上が伸びた。EC化率が2.80%から3.31%と19年比0.51㌽上昇、額にした伸び率は21.13%増と全体平均(21.71%増)とほぼ同じ。これはネットスーパーなどの食品宅配サービスも成長したからだ。

しかしネットスーパー事業はもともと黒字事業になりにくい。レポート内でも触れられているが、初期コストを抑えるために、大型のセンター在庫出荷型ではなく、店頭在庫出荷型をとる企業が多く、その際には店頭ピッカー、仕分け/梱包作業者、配送等の多くのコストがかかる。筆者は各社のネットスーパー改善について相談を受けることも多い。だが、進化はしているものの2007年末にイオンで構築したネットスーパーの基本構造と変わっていないことに驚く。

収益化の取り組みは遅れている

コロナ禍で一気に花形となったネットスーパーだが、ここできちんと再構築して利益モデルにしなければならない。当時は生鮮食品の場合は週2~2.5回程度、平均来店購入されるという調査に対して、「週末はイオン・週ナカは駅前の別チェーン」という流れを変えるために週ナカはネットスーパーを利用いただき、店頭利用者とイオンクレジット会員向けの訴求を強くして、顧客のリピート(LTV)を上げてトータルで収益につなげる構想を描いた。

筆者が知る中で明確に利益モデルと言えるのは三重県のスーパーサンシ、北海道のコープさっぽろ(トドック)の2つ。前者は徹底したオペレーション最適化とコストの内製化を行い、後者は生協サービスとのセンター/配送の一本化によるものだと考える。

ウォルマートはマイクロフルフィルメントセンターを整備

海外に目を向けると、アメリカではウォルマートなどのMFC(マイクロフルフィルメントセンター:店舗内のEC専用在庫スペース)を店舗に構築して作業効率を上げる流れと、クローガーのCFC(カスタマーフルフィルメントセンター:大型のEC専用倉庫)を各地に構築して広域配送することで収益化するモデルが始まっている。

またヨーロッパ含めてクリック&コレクト、BOPIS(Buy Online Pickup In Store)、つまり「ネット注文→店頭受取」はますます増えてきている。日本でもイオンがイギリスのオカド社と組んでCFC型のネットスーパー構想を進め、2023年には展開するとしており、アプリなどの操作性や注文のしやすさの改善とともに、こうした配送を含めた根本的な改善が進むことを期待する。

家電分野も大きく伸びた

(2)生活家電、AV機器、PC・周辺機器等

この分野はやはりステイホームにより、生活環境を快適にしたい家電需要と、テレワークに必要な仕事関連機器の購入やネットワーク強化により大きく伸びた。総務省の家調査によれば20年の世帯当たりの同分野の年間平均支出は6万3710円、前年比11.2%増となった。政府の10万円の給付金が「追い風」になったとも言われている。EC化率も32.75%から37.45%と、19年比28.79%増と、全体平均よりもさらに7㌽もトEC化率が進んだ。市場も伸び、EC化率も進んでいるので、明らかに消費者の購入チャネルに最適化出来ている分野であると言える。

ヨドバシカメラはオムニチャネル化進める

ECの拡大やアマゾン・ドット・コムの進出によって、「型番商品」と言われる家電は当初はネット最安値で選ばれる方向に進んだ。しかし在庫の少ない商品は注文を受けてから確保に奔走するためかなり遅れた納期で出荷したり、購入後の保証が弱かったりするなど、消費者は価格以外の価値に気づいた。

そうした中でヨドバシカメラは1990年代から在庫管理と物流センターを強化し続け、ECにも対応するだけでなく、自社スピード配送やネット注文→店頭受取の流れも取り込み、店舗とネットを一体化するオムニチャネル化の最先端を進んでいる。店舗が大型ターミナル駅立地である事を生かして24時間受取サービスを行い、一階に受取カウンターを設けて専任担当者がスピーディに対応、顧客もすぐ受け取れる。これはその後の店内回遊の誘発や、リピート利用のモチベーションに大きく影響し、下手な販促費をかけるよりも集客の有効な手段となる。

サービスは新たな競争領域へ

アプリにおけるポイントや購買履歴の統合も大きい。家電量販店はこのようなヨドバシに追随してデジタル化を進め始めている。一方、カメラのキタムラのように小型店で全国立地を生かした「ネット注文→店頭受取」のオムニチャネル化を推進している企業もある。各社とも本年度は楽観視しない予算を打ち出しているが、当たり前の利便性と安さだけでは顧客が満足しないデジタルの競争領域にいち早く進んでおり、これからどう進化していくのか注目する。

次回はEC化率から考える自社デジタル戦略③へと続く。

逸見光次郎

株式会社CaTラボ 代表取締役 オムニチャネルコンサルタント

1970年生まれ。学習院大学文学部史学科卒。94年 三省堂書店入社。 神田本店、成田空港店、相模大野店、八王子店勤務。99年ソフトバンク入社。イーショッピングブックス立ち上げ(現:セブンネットショッピング)。06年 アマゾンジャパン入社。ブックス マーチャンダイザー。07年イオン入社。ネットスーパー事業立ち上げ後、デジタルビジネス事業戦略担当。11年キタムラ入社。執行役員EC事業部長、のち経営企画室オムニチャネル(人間力EC)推進担当。17年オムニチャネルコンサルタントとして独立。19年4月より現職。 現在は、オムニチャネルコンサルタント(株式会社CaTラボ)、プリズマティクス社アドバイザー、デジタルシフトウェーブスペシャリストパートナー、流通問題研究協会 特別研究員、EVOCデータ・マーケティング取締役、防音専門ピアリビング取締役、日本オムニチャネル協会理事、資さんうどん通販課長 兼務


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