【オムニチャネルコンサルタントの視点】EC化率から考える
自社デジタル戦略①――統計で概要をつかむ 

UPDATE

逸見光次郎

経済産業省は2020年の小売市場全体に占める電子商取引(EC)の割合である「EC化率」を発表しました。コロナ禍で店舗からECへのシフトが加速し、EC化率は8.08%に上昇しました。逸見氏がこの要因を分析してくれました。

2020年のEC化率は8.08%

経済産業省は7月30日、2020年のEC化率を発表した。正式には「令和2年度電子商取引に関する市場調査」。今回はここから国内小売業の現状と課題を整理したい。

今回の調査は「物販・サービス・デジタル系EC化率全体と分野別」「商業統計による小売全体と内訳」「1世帯あたりのカテゴリー別支出」と3つの統計から変化を〝見える化〟しようと試みているのが興味深い。

EC化率だけ見ると伸びるのが当たり前であり、分母としての国内小売業の変化や、世帯支出の変化と乖離して考えてしまうからだ。2019年版でもGDP(国内総生産)と商業動態統計全体、世帯支出全体や、各種アンケートは掲載されているが、20年版は統計データを中心にさらに比較して考察しやすくなっている。

サマリとして気になる物販全体のEC化率は8.08%(12兆2333億円)。19年は6.76%(10兆515億円)だったので、比率として1.32㌽上昇、額にして21.7%の伸長となった。これまで伸長率は13~14年こそ13%台だったものの、それ以降は5~8%台とひとケタの伸長だった。これまでの傾向であれば11兆円程度だったはずだが、コロナ禍で店舗購買がECにシフトし、大きく伸びた。

EC化率で先に触れておくと、サービス系分野が4兆5832億円(19年7兆1672億円)でマイナス36.0%となる一方、デジタル系分野は2兆4614億円(同2兆1422億円)と14.9%伸びた。サービス系は旅行・宿泊予約やチケット予約が大きく下がる中で、20年から統計を取り始めたフードデリバリーサービスが3487億円となった。

小売全体の市場規模は0.9%の微増、医薬品・化粧品が伸びる

小売市場全体では146兆4570億円と0.9%の微増(商業動態統計)だった。内訳は「織物・衣服・身の回り品小売業」が19.2%減と大きく下げた一方で、「医薬品・化粧品小売業」は29.3%、「機械器具小売業」が44.8%とそれぞれ大きく伸びた。医薬品は薬機法の規制などでECでの扱い総額はまだ小さいが、小売市場全体では大きな数字となっている。金額で機械器具と逆転する形なのが面白い。このあたりが、小売り全体の動向とEC化率をきちんと並べて今後の成長余地を探る上で重要な視点となる。

世帯当たりの支出は財(商品)については153.7万円(19年153.1万円)とほぼ変わらなかったが、サービスは103.9万円(同120.3万円)と大きく下がった。財の中でも「衣類・服飾雑貨」は18.1%減の11万6008円と落ち込んだ。衣類に関しては、分野別EC化率でみると16.25%で、19.4%伸びた。しかし、アパレル市場自体は縮小が続く。店舗からECへのシフトが大きかったものの、市場全体の下落を補うまでには至らなかった。

 

EC市場、食品や化粧品・医薬品に潜在成長力

分野別EC化率では「食品・飲料・酒類」は3.31%、「化粧品、医薬品」が6.72%と、平均より低い。これらは小売市場では大きなシェアを持っているものの、まだまだECにシフトできていないことがうかがえる。前者は〝店舗の最寄性 vs EC利便性〟、後者は〝法規制の緩和及び規制の中でも可能な施策の実施〟によって、潜在的な成長市場であるといえる。

食品小売やECが伸びたのは、外食市場が19年比で15.1%減(日本フードサービス協会)と厳しく、飲食からの代替が進んだというだけではない。旅行やレジャーに使えなかったお金が物販消費に回っている部分も多い。特に海外に行けなかった分が高額品の購入に使われていると推測できる。こうしたことから店舗もECもこれまでの不特定多数の顧客への薄利多売のビジネスモデルから、顧客を見える化して適正価格とリピートによる利益確保型のビジネスモデルへと転換しなければ継続的な事業運営ができない時代になってきている。

これまでEC化率はその数字そのもので、業界関係者は一喜一憂することが多かった。しかし、今回の公表資料に掲載されている各資料との比較を行い、そもそも市場全体で伸びる余地があるのか、市場は伸びないがEC化率は伸びていくのか、双方ともに伸びないのか、自社の事業分野を冷静に見つめて今後のEC/オムニチャネル化、デジタルシフト戦略を考えてはいかがだろうか。

逸見光次郎

株式会社CaTラボ 代表取締役 オムニチャネルコンサルタント

1970年生まれ。学習院大学文学部史学科卒。94年 三省堂書店入社。 神田本店、成田空港店、相模大野店、八王子店勤務。99年ソフトバンク入社。イーショッピングブックス立ち上げ(現:セブンネットショッピング)。06年 アマゾンジャパン入社。ブックス マーチャンダイザー。07年イオン入社。ネットスーパー事業立ち上げ後、デジタルビジネス事業戦略担当。11年キタムラ入社。執行役員EC事業部長、のち経営企画室オムニチャネル(人間力EC)推進担当。17年オムニチャネルコンサルタントとして独立。19年4月より現職。 現在は、オムニチャネルコンサルタント(株式会社CaTラボ)、プリズマティクス社アドバイザー、デジタルシフトウェーブスペシャリストパートナー、流通問題研究協会 特別研究員、EVOCデータ・マーケティング取締役、防音専門ピアリビング取締役、日本オムニチャネル協会理事、資さんうどん通販課長 兼務


関連記事


関連テーマ