【アカデミック・アイ vol.2】
オムニチャネルとDXを捉える上での分析枠組み①

中見真也 准教授

DX化が進まない原因は「経営者」にあるといえます。これは日本の小売業においても課題であり、DXに対する意識改革が必要です。この具体的な内容を中見先生が説いてくれました。

DXが進まない原因は「経営者」

小売業におけるオムニチャネルとデジタル・トランスフォーメーション(DX)を捉える上での分析枠組みについて、詳しく見ていく。

前回、「オムニチャネルとDXの概念図」について説明した。

今回は、図1の赤字部分である「経営者の意識改革――両効きの経営(経済的価値と社会的価値のバランス――)」についてみてみる。

日本の小売業において、なぜアメリカのウォルマートのように、オムニチャネル、DX化が進まないのか。その根本的な要因は、「経営者にある」と考えてよさそうだ。NRF(全米小売業業協会)の2021年度総会におけるセミナーに登壇した、ウォルマートのマクミランCEOの発言に注目すべきだ。

「ウォルマートは、コロナ禍に関わらず、以前からオムニチャネル、DX化に積極的に投資し、ビジネスモデルの変革そのものに取り組んできた。その成果が今日のコロナ禍において花開いているにすぎない。今後も、ウォルマートは、オムニチャネル、DX化を通じ、ビジネスモデルの変革に取り組んでいく」

彼のコメントを聞いて、「そんなの当たり前じゃないか」「ごもっともだ」「自社は、DX化に遅れているようだ」といった感想もあるかもしれない。

しかし、オムニチャネル、DX化は、一朝一夕に出来るものではない。特に小売業は、労働集約型産業の典型。つまり、「人(従業員)」に支えられている業界なのだ。小売業は、商品の販売(物販)のみを行っているわけでもなく、お客様に「買い物」というサービス自体を提供している。それ故に物販業とサービス業のハイブリッド型ビジネスモデルと言ってもよいだろう。

自社理念の浸透と社内教育の徹底

小売業が、オムニチャネル、DX化に取り組む際に必要なことは何か。それは「自社の経営理念、ビジネスモデル、ポジショニングの社内への浸透」と「オムニチャネル、DX化を従業員一人一人の業務に落とし込んでもらう社内教育の徹底」の2点に尽きる。

オムニチャネル、DX化を進める際、ついついB to Cから進めてしまうきらいある。そうではなく、まずはインターナル・マーケティング(B to B)から始めるのが鉄則だ。その中において、自分たちの〝部署最適の発想〟ではなく、他部署との連携を踏まえた〝全体最適の発想〟を持つことが重要だ。マーケティング分野でいうところの「IMC=統合型マーケティング」の発想であり、ここで述べたかった「両利きの経営思考、すなわち、論理思考=右脳と感性志向=左脳のバランスを併せ持つこと」にも相通じる。

DXが経営戦略そのもの

ウォルマートの経営理念は「Every Day, Low Price」だ。この変わってはいけない「経営理念」をベースに、ウォルマートは、時代の流れの中で、変わるべきこととして、「デジタル」を経営の中心に置こうとしている。デジタルは、あくまで手段にすぎない。小売企業がデジタル投資を始めたからといって、既存のビジネスが勝手にアップデートされ、ビジネスモデルが進化するわけではない。日本の経営者の多くは、デジタルに過信しすぎている。

デジタルはあくまでも手段にすぎず、オムニチャンル、DX化こそが自社の経営戦略そのもの。経営者自らが、自社の経営理念をベースに、事業部門、部門組織、従業員一人一人に対し、「自社のビジネスモデルのどこを変え、どこは変えてはいけないか」の指針を明確に示すことが、オムニチャネル、DX化を図る上での第一歩だ。オムニチャネル、DX化の目指すべきゴールは、ビジネストランスフォーメーション、かつ、社会課題の解決(Social Transformation )の両立である。

参考

 


 


中見真也 准教授

神奈川大学 経営学部 国際経営学科 准教授

専門はマーケティング戦略論、流通システム論


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